これはヤバいな…
気が付けは雪はXRのシートレザーの赤と黒の色が見えなくなるほど、降り積もっていた。
時刻は冬山の遭難認定時間16時を大きく回って19時。ここは雪国新潟と群馬の県境の山の中。4人で山越えルートにチャレンジ中、しとしと降る雨からかなり激しい雪に天候が変わって1時間が過ぎた頃だったか。
ここまで、直径1mを越える倒木や、鎖場をロープと人力で担ぎ上げるような難所をいくつも越えて、後は全部下りになる峠まであと少しと言うところで来たのだが、岩場に降り積もった雪でタイヤがまったくグリップしなくなってしまったのだ。
もうこれ以上進むことはできない、となるとあの難所だらけでつづら折れの狭い山道を下るしかない。しかしこうしている間にも雪は降り続き、モトクロスブーツのフラットなソールでは歩くのもままならない。
僕とはっとりさんの持っていた行動食はコンビニエンスストアで買ったおにぎりが五個と、スニッカーズ。途中食べたからおにぎりの残りは2個、飲み水と、当時まだ吸っていた煙草が5本。
僕らはゴアテックスのウエアで、下には素肌にマイクロフリースの長袖シャツ。
他の2名はモトクロスジャージとエンデューロジャケットのみ。
素肌から容赦なく体温を奪い去る雪でもうじっとしているのも辛いのが見て取れる状況。
我々のフリースは、濡れていても肌に接する部分が冷たくないし、ウールほどではないにせよ熱を保っているので、体力にはまだ余裕があった。
でもあまり猶予はない。かと言ってあの道をもう一度引き返すのも相当ハードなルートだし、かなり困難だ。僕らはまだ明るいうちに下に山道と平行するように林道があるのを発見していたので、今いる山道から下にある林道に降りられるところがないか探しに行くことにした。
2人にはエンジンをかけたままの4ストシングルの熱をもらいながら待っていてもらい、ツルツルすべる雪の道なき道を歩いて降りる。いきなりバイクで行ったらもしも登り返せない時にピンチになるからだ。何度も転んだり滑って、かなりタイトなつづら折れの道の真ん中に横たわる大きな倒木にしがみつくようにしながら、急角度でまっすぐ転がり落ちるように下ると、その下は舗装された林道だった。
かなり厳しいがなんとかバイクは通せるだろう。急いでバイクのあるところまで戻ると2台のバイクは淡々とアイドリングを続けていたし、待っていた2人もかなりライフレベルは下がっていたけどまだ大丈夫そうだった。彼らの口にスニッカーズを押し込み、4人でバイクに跨がり急な斜面を下る。ブレーキは全然効かないけど、ところどころはフォークダンスみたいにバイクを抱えて一気に降りるしかない。愛と苦闘のフォークダンスだ。僕らはこうやってどんどんバイクと仲良くなって信頼関係が出来るのである。
雪まみれになりながらなんとか4台を林道に下ろした。
やった!これで雪の中で笠地蔵みたいに立ったまま冷凍人間になることは避けられた。
果たしてこの道はどこに通じているのか。手持ちの2万5千分の1の地図にはまだ反映されていない新しい林道だけど、きっと車のあるところにたどり着けるはずだ。
雪はちょうどフロントアクスルシャフトのすぐ下くらい、乗ったまま走れるギリギリのいい感じの深さだ。走ってるとだんだん身体が温まって手足に血が通って来るのがわかる。少しライフレベルが回復して来ると頭の中はラーメン食べたい、温泉入りたい、暖かい布団にくるまりたい…もう僕らは走る煩悩のかたまりである。
少しペースを落とすとすぐに寒くなる。走るスピードで運動量が全然違うのだ。
それでも1時間以上林道を走って、やっとのことで車にたどり着いたのが午前1時。
本当に生きててよかった!そして一緒に行った仲間も全員生還できてよかった!
以来どんなに簡単なミッションでも水筒に水は満タン、おにぎりは5個買わないといけないというルールはこういう理由で決まったのである。
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