「実物大」本来はモノの大きさを表す言葉だが、これを音声の世界に持ち込んだ男がいる。T田くんだ。世界各地をバイクで旅した後、オーストラリアや北米、南米を家族3人で自転車を使った旅をすることになるが、
当時の彼は自転車による世界一周を目論みつつも、
世を忍ぶ仮の姿は自動車ディーラーに勤める腕利きメカニックとして多忙な日々を送っていた。
その奥さんは家族で世界一周の夢をかなえるために、深夜のファミレスでウェイトレスのアルバイトを毎晩続けていた。
当然のことながら昼間の彼女は眠くなり、まだ2歳の愛娘はひとりでよちよち歩きでひっきりなしにフォークリフトやトラックが行き交う路地を渡って折り詰めの箱を作っている工場に迷い込んでしまう。
気持ちのいい昼下がり、ナツと仕事しているとドアのチャイムが鳴る。
出てみると箱屋の若旦那がAちゃんの手を引いてうちの玄関にいる。
「おたくの娘かな?工場に来ちゃうんだけど危なくってさ」「いや、うちの子じゃないけど…いいですよ、この娘のお母さん多分寝ちゃってるんだ」
なんて話してAちゃんを預かって、焼き芋でもしようかってナツと三人で落ち葉を集めて焚き火を始める午後。
立ち上る煙に木漏れ日がしましま模様を作るおだやかな午後三時…
みたいな生活だった。
ある晩、Mさんが勤める国道17号線沿いの深夜ガストに強盗が入った。犯人は会計のタイミングで大きな庖丁を出すと「金を出せ」と言ったそうだ。
対応していたMさんは犯人が出した庖丁を見て金切り声を上げてそのまま厨房に逃げ込んだ。その絶叫に慌てた犯人は何も盗らずに逃走したという。
その後は警察による事情聴取だとか検証だとか、Mさんが帰って来たのが明け方で、寝て来たT田さんを叩き起こすと、何度も何度も、まさにエンドレスで強盗が来た部分を再現して見せたという。特に絶叫しながら厨房に逃げるシーンではまさに「実物大」の金切り声を上げての熱演。さすがに参ったよ…とT田氏。
声も実物大って表現、わかりやすいよね。
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