こりゃどうかしたら野宿かな…僕はそう思いながら、残り少ないタバコを1本吸った。
今役に立ちそうな所持品は、去年なんかのレースに出た時にもらったムギ球の懐中電灯一個とタバコとライター、背中のキャメルバッグの中で生暖かくなった飲み残しの水くらい。この頃LEDライトはまだなかったか、赤色のが出ていたか、13年前ってそうだったんだぜ。
「山に入る時はキャメルバッグを背負っておにぎりを5個とスニッカーズを買う」これは僕らの暗黙のルール。
キャメルバッグとは、背中に水を背負うためのビニール袋状の水筒。
普段の食事だってそんなにたくさん食べないが、山の行動中、食事は一度におにぎり2個食べたら十分。しかし敢えて防腐剤の入ったコンビニのおにぎりを5個買う。
コンビニのおにぎりは、真夏のクルマのダッシュボードに丸一日置き忘れても全然腐らないんだ。
自分で作ったおにぎりが、半日リュックに入れてるだけで糸を引くように腐り始める蒸し暑い日でも、どういう調教をされているのか、コンビニエンスストアで買うおにぎりはまるで腐ることがないのである。
それとスニッカーズ。
「お腹が減ったらスニッカーズ♪」ってコマーシャルを見たことがある人もいると思うが、あの中でもナッツぎっしり確かな満足感!とは言っても一度だって「おいしいです」とは言わないだろ?
そう、たいしておいしくはないがナッツとチョコで確かな満腹感が得られる食べ物、それがスニッカーズなのである。(個人の感想です)
だいたいあまりにもおいしいとすぐに全部食べちゃって少し物足りない気がするものだけど、これでもかというくらい甘く、ナッツとキャラメルが歯の裏にへばりつくスニッカーズならそんな心配は無用。さらにアスリートが自転車のハンドルに巻き付けておいて必要に応じてむさぼり食うと言われたパワーバーなら、たった一口で大満足、当分いらない気分になるので安心なのである。
(個人の感想です)
ただ、安心感のために買うことは買うがなかなか出番がないので、いざ食べてみようって時にはぺたんこに潰れて袋も半分破れたような状態でバッグの底から発掘されることも多いのがこの手の食品でもある。
ともかく、映画ブラックホークダウンみたいな、ちょっと軽いミッションと思って出撃したあげく地獄を見るような教訓映画をたくさん見ている我々は、どんな簡単な山に行く時でもパンク修理キット、空気入れ、チェンのコマとクラッチレバーとホルダくらいは必ず携帯しておにぎりを5個買っていたのである。
また別の機会に話すが、新潟群馬の山越えルートの途中で雪が降って来たときなど、
そのおにぎりに命を救われたことだってある。
これも別の日だが、山のルートを行動中、肋骨にヒビをいれたメンバーが出て深い山の中で深夜になったことがある。
その時に医師でもあり優秀なライダーでもある友達が僕に差し出したアメはなぜかノーカロリーキャンディ…
「なんだこれ!これなめる分、よけいに力使って疲れちゃうじゃねえか!」
山の中ではともかくエネルギー補給がもっとも重要なのである。
しかしその日はどうしたわけかおにぎりは底をつき、何ヶ月か前に買ったスニッカーズは工具バッグの中でベッチャリつぶれてすっかり泥と一体化していたのである。
昼間はあまり意識していないが、このあたりはイノシシと熊の楽園、
太い木の幹には爪痕があったり、沼地ではイノシシの泥浴び場もあるようなところだ。
「参ったね〜」ホントに参ってるんだかどうなんだかわからない
飄々とした口調でハットリさんが言った。
つづく
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