太陽が沈んでからしばらく残っていた空の明るい部分は完全になくなった。
僕とハットリさんはそれまでちょっとヤバいな…って感じてた予感が現実になったのがわかった。
夕暮れ時に背丈を超えるような深いクマザサの斜面を2台のバイクで下っている途中完全にルートをロストしてしまったのだ。
弾力があるクマザサは、僕らが通過した後はどんどん元の形に戻って
すぐ後ろを振り返っても自分がどこから来たのかまるでわからない。
昼間に転倒して右のハンドガードが取れたので、斜面を下るとクマザサに押されて勝手に右手のブレーキがかかるので、
乗りにくいことこの上ない。
標高1200メートルを越える山の中は、日が暮れると気温がぐんぐん下がって来た。
山で道に迷ったら、しかもバイクなら下り続けるのは賢いやり方じゃない。
僕らは降りて来たルートを戻ることにした。
バイクから降りて
自分たちが来た道を探そうと、少し歩いて斜面を登ってみるが、あっと言う間に自分のバイクの位置がわからなくなってちょっと慌てる。
1人はバイクの少し上、もう1人はさらに上を、互いに声をかけ合いながら自分の通った痕跡を探すがまるでわからない。
今から13年前、まだiPhoneだとか携帯GPSなんてなくて、
位置が大まかにわかるだけの、ボール紙にアルミホイルが巻いたようなアンテナのガーミンだとか、国土地理院の1/25000地形図だけで道を探索していた頃の話だ。携帯だって二つ折りで、山の中は当たり前に電波圏外だった。
群馬と長野の県境付近の峠から、比較的ゆるい等高線で別の国道に抜けられる細い道があると、地形図には書いてあった。ルートの入り口に行くとまあまあわかるような道の入り口。
当時僕らはいつも登山ルートやハイキングコースは避けて、登山する人もない山の廃道ばかりを探しては、いわゆる突抜けルートを探し求めていた。
その日も深い森に埋もれた軽便鉄道の痕跡を、昭和30年代の地図から現代の地形図に照らし合わせて走りながらイノシシに出会ったり、ちょっとしたヒルクライムを見つけたりして楽しんでいた帰り、もう1本道を繋げて帰ろうぜってくらいの軽い気持ちでルートに入ったのだった。
一日楽しんだあとだったのでほとんど食料も水もなし、予定のルートも地図にははっきり書いてあるし、2キロに満たない短いものだったので、完全に油断してた。
とりあえず作戦を立てよう。
「タバコ何本残ってる?」「7本」「オレ5本…」僕らはそんな感じで湿った地面に身体を横たえた。
つづく…
No comments:
Post a Comment