Thursday, June 19, 2014

一切れのパン追記

今から25年くらい前、まだ逆輸入のオフロードレーサーを中古で手に入れて山に行き始めたばかりの頃、
みんなが楽しんでいる切り立った斜面は僕にとって全てが地獄の難所でしかなく、
バイクを上手く操れないで途中でスタックばかりしていた。
むやみにアクセルを開ければ地面に倒れた木の皮は剥がれてさらにツルツルになり、グリップを失い、
木の根の間の土は取り除かれて溝が出来てしまう。

友達になったばかりの地方のやつらはみんなすごく上手くて、ともかく「かっぽじらない」でスマートに走る、どこを通ったか後を見てもラインがわからないような、いわゆるローインパクト思想の先駆けみたいなスタイルで山を走る男達だった。

ガキだった僕は、ヒルクライムの順番を待つ間、自分の下手さを棚に上げて「登らない=パワーがない」と考えて
XR250のマフラーのエンドに付いている消音器を外そうと考えていた。
これを外すと素人の僕でもわかるくらい抜けが良くなって
砂地みたいなところではパワーアップを明らかに体感出来る。
ただ、その分うるさくてね。

煙草をくわえて、火をつける。
ウエストバッグを外して工具の入ったポーチに手を伸ばすと、
僕の考えを見透かすように、友達になったばかりのムロさんがやっぱりくわえ煙草で僕の顔を見ながら
「たしやん、今から大切な話をするからよ」
と言って話してくれたのが前回のラビのパンの話。

「一切れのパン」

彼の話はとても上手で、木漏れ日と停めたバイクと地面に座ってコーヒーの缶を灰皿代わりに、鳥のさえずりや遠くで聴こえるバイクの音がする山の中で、最後まで話を聞いた。

そして僕は消音器を付けたまま、つづら折りの坂道に挑戦した。
途中何度か止まったけど、タイヤをずらしてラインを変えたり、
下がれるだけ下がって再発進したり、ハットリさんとムロさんに励まされながら
なんとか上までたどり着くことが出来た。
結局僕にとってのラビのパンを使うことなく走り切れたことは大きな自信につながった。

空気は限界まで抜かない
水は最後の一口はとっておく
非常用にスニッカーズを持つ
実際のパンにあたるものもあるけど、いつも心の支えを一つポケットに入れておくのはいいですよ。

気になったら読んで下さい、「一切れのパン」



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